三脚の写真の、レンズの先をみると、蛾がとまっているだろう。大きく写したい。だからスズメガの近くに三脚を据えたい。でも、相手に気づかれないように、静かな落ち着いた動作で。

 

 レンズは105のマイクロ。左手でレンズをもつ。カメラネジを少しゆるめる。レンズをスズメガに向けたまま、パンボーをゆるめて、もちあげるように上に振る。ガの画像が少し大きくなる。ピントを合わせる。カメラとスズメガとの距離を縮めたのだ。反対に、パンボーを下に押せば、ガとカメラの距離が少し離れるから、画像が小さくなる。ファインダーを通してガを見つづけながら、フレーミングと合焦を同時にするのである。

 写真の状態は、カメラがゆるみやすい。ネジがゆるむ方向に力が加わることを意識しよう。クイックシュー内臓雲台は、この作業を許してくれない。カメラがカメラ台に固定され、自由に動けないからだ。写真で、カメラがカメラ台に対して、ななめになっていることを確認してほしい。どうしてもクイックシューというなら、単体クイックシューをカメラと雲台の間にセットして、クイックシューをカメラの一部と考えて作動させるといい。

 ファインダーを通してみるスズメガはきれいだ。もっと寄ってみたくなる。手前の翅からむこうの翅まで、ピントが合うだろうか。翅や胴体の紋様はきちんとみえるだろうか。特徴らしい特徴、たとえば触角を、ちゃんと押さえているだろうか……いくつもの疑問に答えてゆくことが、構図を決定し、画面整理を進める。

 低い位置にカメラを据えて、相手に気づかれないようにファインダーを覗くのは楽ではない。息ハアハア、汗ポタポタということだってある。麦藁帽子などかぶっていると、それが災いすることもある。

 羽化して間がないから、すぐ飛び去ることはあるまいと、高をくくってはいけない。準備万端ととのえて、さあシャッターとファインダーを覗いたら、主が消えていることだってある。虫にも都合があるのだ。まず押さえておくことが大切。

 幼い頃のこと、夏の夕暮れ、庭のオイラン草にスズメがよくきた。それを兄が捕まえて、親指と人指し指で胸押さえ、渡してくれた。池に、浮かべるようにして離すと、ガは水上を歩くように一尺ばかり動いて飛び去る。水面に波紋と鱗粉を残して。まるで水上機の離水のように。 なお、三脚と一緒に写っているのは、コスズメ。赤っぽいのは、ベニスズメ。これを撮っている様は、撮れなかった。

 

ポイント


 

準備万端ととのえて、さあシャッターとファインダーを覗いたら、主が消えていることだってある。虫にも都合があるのだ。まず押さえておくことが大切。


 

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